マインドフルネスとは伝統的な仏教瞑想をベースとした心身の訓練法および心の態度を指し,「第3の波」として現代の認知行動療法の新たな枠組みに取り入れられました。これは「今この瞬間に,意図的に,判断をせずに,注意を払う」と定義され,自動的にわき起こるネガティブ思考への注意コントロールを主眼にしています。
「今ここ」における経験に気づきを向け,判断を離れてあるがままに受け入れるという態度を涵養する技法です。呼吸法やヨーガを通じて,自然と生じてくる内的・外的な刺激の流れに判断を与えずに観察することを繰り返します。特にネガティブな思考や感情が生じたときにそれにとらわれないで生きる力が養われます。
認知行動療法とは,思考(認知)と行動のパターンの歪みを変容させることで,それが原因となって表れる不安やうつ,強迫性といった不適応な状態を緩和させていく心理療法の枠組みです。越川ゼミではとくに不安やうつを対象とした認知行動療法の技法と理論を体系的に学んでいます。
マインドフルネスは「認知行動療法の第3の波」として従来の認知行動療法を発展させ,マインドフルネスを基礎とした認知療法(MBCT)や認知行動療法の中でのマインドフルネス実践(ACTやDBT)などの新たな枠組みが生まれました。そのため,自律訓練法や自己教示訓練といった従来の技法もいまなお重視しています。
過度にストレスフルな環境にさらされることで引き起こされる精神疾患の主なものとして不安障害やうつ病といった感情障害があります。認知行動療法はこうした感情障害を中心に理論が構築されており,薬物療法などと同等の効果があることが実証されています。この2つは越川ゼミでもよく取り扱われるテーマになっています。
認知行動療法では症状の全体像を認知・行動・生理の3システムズモデルによって捉え,マインドフルネス訓練でも身体感覚に注意を向けることが技法のキーになっているように,「こころの問題」の基盤にはわれわれの「身体」があります。越川ゼミでは心身相関あるいは心身相即の観点から,こころとからだの関係を考えています。
マインドフルネスのルーツは仏教瞑想(禅や止観)にありますが,さらにそのルーツはヨーガの体系です。伝統的なヨーガは現代のエクササイズ的なヨガとは異なり,動作中の身体感覚に注目するという点でマインドフルネスと共通の基盤があります。この意味でマインドフルネスは「動作を伴わないヨーガ」と言うことができます。
同じ環境でも人によってストレス反応に違いがあります。その個人差を認知行動療法では個々のパーソナリティとその特徴的な認知プロセスの違いに帰因すると考え,それが不安やうつへの脆弱性となることを明らかにしてきました。また,それに対するストレス耐性の指標のとしての「マインドフルネス特性」についても考えています。
臨床心理学で扱われる概念の多くは,感情やパーソナリティといった一度の実験的な行動指標で直接には観察できないものも多く,そのため被験者の内省によって回答可能な多種の標準化された質問紙を利用します。また,マインドフルネスや脱中心化といったこれまでになかった概念の提案を行うために新しい尺度開発を行ったりします。
認知行動療法では,不安や抑うつ感情がある場合の認知内容や情報処理の特異性(偏り)に注目し,そこに介入する技法を開発・実施します。そこで,感情プライミングや情動ストループといった認知実験によって反応潜時の分析をすることで感情と認知処理の関係を明らかにし,認知技法の効果検討を行うことができます。
質問紙で測る心理特性に加え,ワーキングメモリや注意スキルを測定する認知課題,血圧計・体温計を初め,唾液アミラーゼモニターによるストレス値の計測,バランスWiiボード™を用いた重心動揺計測,光トポグラフィーによる脳活動の計測データなども利用しています。
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